大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和61年(ワ)10459号 判決 1988年6月23日

原告

木村こと許雪子

被告

松村豊

主文

被告は、原告に対し、金一一三万五三九六円およびこれに対する昭和五九年九月一三日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを二〇分し、その一九を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

被告は、原告に対し、金二一七〇万六八九〇円およびこれに対する昭和五九年九月一三日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二請求原因

一  事故の発生

1  日時 昭和五九年九月一三日午前一一時一五分頃

2  場所 八尾市志紀町南二丁目六番地先(交差点)

3  加害車 普通貨物自動車(大坂四〇の六七六〇)

右運転者 被告

4  被害車 原動機付自転車(羽曳野市す七三六三)

右運転者 原告

5  態様 加害車が対向車線の渋滞車両の間を通過して右折しようとした際、渋滞車両の左側を直進してきた被害車と出合い頭に衝突

二  責任原因

1  運行供用者責任(自賠法三条)

被告は、加害車を所有し、自己のために運行の用に供していた。

2  一般不法行為責任(民法七〇九条)

渋滞車両の間を通過して右折しようとする運転者は渋滞車両の左側を進行してくる直進車の有無動静に注意して右折すべき注意義務があるのに、被告は何ら直進車に注意を払うことなく漫然と右折した過失により、本件事故を惹起した。

三  損害

1  受傷、治療経過等

(一) 受傷

頭部打撲挫傷、左足背左足関節部挫創

左肘部右大腿部挫傷等

(二) 治療経過

入院(八尾市立病院)

昭和五九年九月一三日から昭和五九年一〇月二二日まで(四〇日)

通院

八尾徳州会病院

昭和五九年九月一三日

八尾市立病院

昭和五九年一〇月二三日から昭和五九年一〇月二九日まで(実通院二日)

豊田外科医院

昭和五九年一〇月三〇日から昭和六〇年三月二六日まで(実通院九四日)

雄誠会ミスミ病院

昭和六〇年四月三〇日から昭和六〇年七月九日まで(実通院三四日)

(三) 後遺症

昭和六〇年七月九日症状固定

左足関節部機能障害(後遺障害別等級表一二級七号)

頸部腰部知覚異常及び頑固な疼痛(右同表第一二級一二号)

2  治療関係費

(一) 治療費 六六万二四七七円

八尾徳州会病院 六万七七九〇円

八尾市立病院 三一万〇八七七円

豊田外科医院 二六万一五二〇円

雄誠会ミスミ病院 二万二二九〇円

(二) 入院雑費 四万四〇〇〇円

入院中一日一一〇〇円の割合による四〇日分

(三) 通院交通費 一二万八〇〇〇円

昭和五九年一〇月三〇日からの通院中、一日一〇〇〇円の割合による一二八日分

3  逸失利益

(一) 休業損害 一〇〇〇万円

原告は事故当時四〇歳で、料理店「とさや」を経営し、一か月平均一〇〇万円の収益を得ていたが、本件事故により、昭和五九年九月一三日から昭和六〇年七月九日まで一〇か月間休業を余儀なくされ、その間一〇〇〇万円の収益を失つた。

(二) 将来の逸失利益 六七二万円

原告は前記後遺障害のため、向後四年間その労働能力を一四%喪失したものであるところ、原告の将来の逸失利益を算定すると、六七二万円となる。

100(万円)×12(月)×0.14×4=672(万円)

4  物損 一三万円

原告は、本件事故により被害車を破損され、その修理費用は右金額である。

5  慰藉料 四八六万二〇〇〇円

(一) 入通院慰藉料 八九万二〇〇〇円

(二) 後遺症慰藉料 三九七万円

原告の傷害の部位、程度、入通院状況、後遺症の程度などを総合すると、原告の精神的苦痛を慰藉するには右金額が相当である。

6  弁護士費用 二〇〇万円

原告は、本件訴訟の提起、追行を原告代理人に委任したが、弁護士費用としては右金額が相当である。

7  小計 二四五四万六四七七円

四  損害の填補 二八三万九五八七円

原告は次のとおり支払を受けた。

1  自賠責保険金 七五万円

2  被告から治療費四八万五五八七円、休業損害として一六〇万円

五  本訴請求

よつて請求の趣旨記載のとおりの判決(遅延損害金は民法所定の年五分の割合による。)を求める。

第三請求原因に対する被告の答弁

一、二は認める。

三のうち、1の(一)(二)及び2の(一)は認める(但し、雄誠会ミスミ病院の治療費は、二万五五六〇円である。)が、その余は損害の内容及び金額の相当性を争う。

四は認めるが、被告が支払つた治療費は五一万五一四七円である。

第四被告の主張

一  後遺症の固定時期及び等級

八尾市立病院の診断書(乙第一号証の九)によれば、病名は、頭部打撲、頸部挫傷・左足背・左足関節部挫創、左肘・右大腿部挫傷であり、他院にてリハビリを続ける予定とされており、豊田外科医院の診断書(乙第四号証の一)では、病名は左足関節機能障碍のみであり、挫創部分は症状固定され、昭和六〇年三月二六日治癒となつている。その後通院した雄誠会ミスミ病院においても左足関節部に対する治療のみであるから、原告の後遺症の症状固定日は、昭和六〇年三月二六日と考えるべきである。

自賠責保険においては、原告の後遺症は、頸部に神経症状を残すものとして第一四級一〇号の認定がされており、異議申立ても却下されているのであるから、第一二級に相当するとは考えられない。

二  休業損害について

昭和五九年分の原告の所得税の確定申告額は一〇五万円であり、原告経営の料理店の収益が月額一〇〇万円であるのは高きに失する。また、通院期間が長すぎることは前述のとおりであり、休業期間も長すぎるし、その間全く経営ができなかつたとは考えられない。

三  過失相殺

本件事故は、渋滞中の車両間の事故であり、被告が右折に際しての注意義務を怠つたことは認めるが、原告も右折車両の存在を予見可能であつたにもかかわらず、前方注視を欠き、漫然時速三〇キロメートルで直進したのであるから、原告にも前方不注視の過失がある。

四  損害の填補

本件事故による損害については、原告が自認している分以外に、被告より三〇万六三一〇円の支払いがなされている。

第五被告の主張に対する原告の答弁

一  過失相殺

原告は青信号に従つて直進していたもので、進路右前方には大型貨物自動車が停止していたため、右側前方の視野は遮ぎられており、加害車両の動向は予知不能の状況にあり、また右折車両のあることは到底予想し得るところでなかつたのであるから、原告には何らの過失もない。

二  損害の填補

否認する。

第六証拠

証拠関係については、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから引用する。

理由

第一事故の発生

請求原因一の事実は当事者間に争いがないところであるが、この事実に、いずれも成立に争いのない乙第一号証の四、五及び七並びに原告本人尋問の結果を総合すると、事故の具体的態様は次のとおりであり、原告本人尋問の結果中この認定に反する部分は他の証拠に照らして信用できない。

本件事故現場は国道二五号線上の変形交差点(五差路)であり、被告は加害車を運転し、青色信号に従い南東から北西に向かつて交差点に進入し、対向車線の渋滞車両の間を横切つて右折しようと道路中央に寄り一時停止したところ、対向車線を進行してきた大型貨物自動車が、同車も右折するため間隔を空けて停車し、しかもその後方にも車両が渋滞していたため、右大型貨物自動車の前を横切つて右折しようと考え、他に進行してくる直進車両はないものと軽信し、時速約一五キロメートルの速度で右折を開始したところ、左前方約四・五メートルの地点に被害車を発見し急制動をかけたが及ばず自車前部を被害車に衝突させた。

一方原告は、被害車を運転して北西から南東に向けて渋滞している車両の左側を時速約三〇キロメートルで進行し、青色信号に従い本件事故現場である交差点に進入し、交差点中央近くに右折のため停止していた大型貨物自動車を認めたが、その左側をそのままの速度で直進し本件事故に遭つた。

第二責任原因

請求原因二1、2の事実は当事者間に争いがない。

従つて、被告は自賠法三条及び民法七〇九条により、本件事故による原告の損害を賠償する責任がある。

第三損害

一  受傷、治療経過等

1  請求原因三1(一)(二)の事実は当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、いずれも成立に争いのない甲第一、第二、第一二ないし第三一号証、乙第一号証の八、九、第二、第三、第四号証の一、第五号証の一、いずれも原告主張の写真であることに争いのない検甲第一ないし第八号証及び証人戸田稔の証言並びに原告本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められ、甲第一、第二号証の記載内容、証人戸田稔の証言及び原告本人尋問の結果中、この認定に反する部分は他の関係証拠に照らし信用できない。

(一) 本件事故により気を失つた原告は、直ちに救急車で八尾徳州会病院に運ばれ応急処置を受けたうえ、八尾市立病院に転院し、昭和五九年一〇月二二日まで入院し、退院後も同月二九日まで二回通院したこと。

当時の病名は、「頭部打撲、頸部挫傷、左足背・左足関節部挫創、左肘・右大腿部挫傷」であつたが、左足部の症状以外は良好となつたため、左足関節部の可動痛・自動痛の治療、リハビリを目的として、昭和五九年一〇月三〇日豊田外科医院に転院し、昭和六〇年三月二六日まで、同部に対してのみマツサージ、湿布などの理学的療法を受け、左足関節機能障害は、可動域が少し制限されたものの昭和六〇年三月二六日症状固定を判断されたこと。

(二) その後原告は、昭和六〇年四月三〇日雄誠会ミスミ病院に赴き、交通事故による外傷性頸肩腕症候群、腰痛、左足関節部の痛みと知覚麻痺を訴えて戸田医師の診察を受けたが、その際、「豊田外科医院で後遺症の診断記入をしてもらつたが、一四級相当だつたので異議の申請をすることになるだろう。」と述べ、改めて後遺症の診断記入を求めたが、戸田医師から一か月以上来院の上でなければ記入できないといわれたため、同病院においては、頸部と左足部に低周波刺激療法・牽引等を、腰部にはホツトパツク療法等を継続して行い、左足関節部の痛みも同年五月二八日に腱鞘内に局所麻酔剤を注入した以後は、痛みを感じなくなつたこと。

(三) これ以上症状軽減も機能回復も期待できないと考えた戸田医師は、昭和六〇年七月九日後遺障害診断書を作成したが、その当時の原告の症状としては、頸椎及び腰椎に生理的前湾が消失(腰椎は軽度)し、第五頸椎には正常域を超える前方辷りが、左足の腓骨の外果部には化骨の形成がみられ、左足関節部の運動域には問題がなかつたが、知覚異常(過敏)があり、正座は不可能な状態であつたため、同医師は、他の病院での治療期間も考慮し、左足部、頸部、腰部に頑固な神経障害が存すると考えたこと。

(四) なお、昭和六一年一一月二五日なされた原告の左足関節部の背屈・底屈の運動可動域の測定によると、正常な右足に比較し、いずれもほぼその二分の一に制限されており、戸田医師は左足関節部に機能障害が存すると判断していること。

2  右事実によれば、本件事故当時、原告は、頭部打撲、頸部挫傷、左足背・左足関節部挫創、左肘・右大腿部挫傷の傷害を負つたが、八尾市立病院を退院する際には、左足関節部に機能障害がみられる以外は特に他の部位にとりたててリハビリを必要とするような症状はみられなかつたことが認められ、その後豊田外科医院における一四八日間の治療も左足関節部に対してのみなされていることや、昭和六一年一一月二五日当時の原告の左足関節部の運動可動域の制限状態をも考え合わせると、原告の本件事故による後遺症は、左足関節部の機能障害のみであるというべきである。

しかも前認定事実に照らすと、その症状固定時期は、昭和六〇年三月二六日と考えるのが相当である。

原告は、雄誠会ミスミ病院での治療を受けた後の昭和六〇年七月九日が症状固定時期であり、後遺症として他にも頸部・腰部の知覚異常や頑固な疼痛が存在する旨主張し、原告本人尋問の結果中や証人戸田稔の証言中及び同証人作成の甲第一、第二号証中にも右主張に添う部分が存するが、前記認定事実によると、原告は豊田外科医院作成の後遺症診断書の記載内容が気に入らず、通院打切り後一か月以上経過したのちに改めて後遺症の診断記入を求めて雄誠会ミスミ病院に受診したものと推認されるのであつて、その後の同病院における治療期間も、戸田医師をして後遺症の症状固定の有無を判断するのに必要な期間であつたと推認されるのであり、戸田医師の証言や同人作成の後遺症診断書(甲第一号証)等の記載をもつてしても前記判断は左右されるものではないというべきである。

また、昭和六〇年七月九日当時、原告の頸椎・腰椎に生理的前湾が消失し、第五頸椎に前方辷りが存することは認められるが、腰椎の異常は軽度にすぎず、頸椎の異常もそれによつて頑固な疼痛や神経症状が生じていたと認めるに足りる的確な証拠はなく、結局、頸部、腰部に後遺症の存在することには疑問を抱かざるをえない。

3  次に左足関節部の機能障害の程度について判断するに、前記認定事実によれば、原告は、症状固定後の昭和六〇年五月二八日にも左足関節部腱鞘内に局所麻酔剤を注入する治療を受けており、昭和六一年一一月二五日の時点においても右足に比してほぼ二分の一に相当する大幅な運動可動域の制限が認められ、正座ができないことや左足背部に知覚異常の存することなどを総合して考察すると、原告の左足関節部の機能障害の程度は、後遺障害別等級表の第一二級七号にいう下肢の三大関節の一つである足首関節部に機能障害を残すものに該当するというべきである。

二  治療関係費

1  治療費 六四万〇一八七円

請求原因三の2の(一)は雄誠会ミスミ病院の治療費を除いて当事者間に争いがない。

そして右雄誠会ミスミ病院における治療が症状固定後の治療であることは前示のとおりであるから、右病院における治療費は本件事故と因果関係を欠くというべきであり、治療費の額は、六四万〇一八七円である。

2  入院雑費 四万四〇〇〇円

原告が四〇日間入院したことは、前記のとおりであり、右入院期間中一日一一〇〇円の割合による合計四万四〇〇〇円の入院雑費を要したことは、経験則上これを認めることができる。

3  通院交通費 九万四〇〇〇円

弁論の全趣旨によれば、原告は、症状固定にいたるまで豊田外科医院への通院(九四日)のため合計九万四〇〇〇円の通院交通費を要したことが認められる。右金額を超える分については、本件事故と相当因果関係がないと認める。

三  逸失利益

1  休業損害 八一万二九二四円

原告は、休業損害の算定の基礎となる原告の収益額(所得金額)について月額一〇〇万円である旨主張し、その証拠書類として甲第三ないし第八号証、第九号証の一ないし二二、第一〇号証の一ないし二一及び第一一号証の一ないし二一を提出するとともに、原告本人は、料理店「とさや」の収益は月額一二〇万円を下らない旨供述しているが、成立に争いのない甲第三二号証によると、原告の昭和五九年分の営業所得の金額は一〇五万円であることが認められ、その所得金額が本件事故前の同年八月までの金額と解したとしても、これと異なる所得金額を主張する原告において、その主張する金額が真の所得金額であることについて合理的な疑いを入れない程度に立証する必要があると解するべきである。

本件の場合、原告本人尋問の結果によると、昭和五九年六月ないし八月の売上金額を記載したと主張する甲第三ないし第五号証は、いずれも本件事故後に作成されたもので、その記載の正確性を裏付ける伝票帳簿類は現存しておらず、そもそも「とさや」の売上については継続記帳すらしていなかつたことが認められ、これらの事実に照らすと、右甲第三ないし第五号証が真実「とさや」の売上額を記載したものとは到底認めることはできない。

またその他の書証は仕入金額の明細書及び領収書類であるが、原告本人尋問の結果によると、原告は「とさや」の外に弁当屋を経営し、その仕入も自ら行つていたことが認められ、右領収書の記載額が全て「とさや」の仕入額のみを示すものであるかについても疑問を抱かざるをえず、仮に原告主張の仕入額が正確だとしても、その金額から原告の所得金額を合理的に推認するに足りる証拠もない。

そして原告本人の供述もその裏付けを欠くことになるから、結局原告の収益額の立証は尽くされていないといわざるをえず、損害額の算定にあたつては、昭和五九年度賃金センサス産学計・企業規模計・学歴計の四〇歳女子の平均給与額(年額二二七万三七〇〇円)によることが相当と認められる。

休業期間については、前述のとおり、原告の後遺症の固定日である昭和六〇年三月二六日までの一九五日間とみるのが相当であるが、原告本人尋問の結果によれば、原告は入通院期間中も弁当屋の経営を行い、その収益は事故前と変わりがなかつたことが認められ、この事実に前認定の通院状況、後遺症の程度等も考え合わせると、休業期間中の労働能力喪失率は、昭和五九年一二月末まで(一一〇日間)は八〇パーセント、それ以後(八五日)は五〇パーセントと認めるのが相当である。

以上に従い原告の休業損害の額を算定すると、八一万二九二四円(円未満切捨て、以下同じ。)となる。

2,273,700×(110/365×0.8+85/365×0.5)=812,924

2  将来の逸失利益 一一三万四五八〇円

原告は前記後遺症のため、昭和六〇年三月二六日から少くとも四年間、その労働能力を一四%喪失するものと認められるから、原告の将来の逸失利益を年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると一一三万四五八〇円となる。

2,273,700×0.14×3,5643=1,134,580

四  物損 一三万円

弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第三八号証によれば、原告は本人被害車の修理費用として右金額を支出したことが認められる。

五  慰藉料 二六八万円

本件事故の態様、原告の傷害の部位、程度、治療の経過、後遺障害の内容程度その他諸般の事情を考えあわせると、入通院慰藉料額は八〇万円、後遺症慰藉料額は一八八万円とするのが相当であると認められる。

六  総損害額

以上のとおり、原告の総損害額(弁護士費用を除く。)は五五三万五六九一円となる。

第四過失相殺

前記第一認定の事実によると、被告が右折のため交差点中央付近で一時停止した際には、対向車線上にも右折のための大型貨物自動車が停止しており、左方の見通しがきかない状況であつたのであるから、被告としては見通しがきく所まで進行したうえ、一時停止するなどして対向車線の渋滞車両の左側を進行してくる車両の有無・動静を確認したうえで右折すべき注意義務が存したものというべきである。

しかるに被告は、漫然直進車両はないものと軽信して右折を開始し、本件事故を惹起したものでその過失の存在は明らかである(この点は被告も自認している。)。

また前記認定事実によると、国道二五号線上の南東方面行きは車両が渋滞し、しかも交差点中央付近に大型貨物自動車が右折のため停止していたのであるから、このような場合には、右停止大型貨物自動車の前方を通つて対向車線からの右折車両あるいは横断車両が進行してくることが十分に予想される状況にあつたと認められるので、右大型貨物自動車の左側方を進行しようとする原告としては、進路の右前方特に対向車線からの右折車両等の存在に意を用い、場合によつては減速、徐行するなどして安全な速度と方法で進行すべき注意義務があつたものというべきである。従つて、漫然速度を減じることなく進行した原告においても、本件事故の発生については過失が存したというべきである。

そして本件事故の態様を総合して判断すると、過失相殺として原告の損害三割を減ずるのが相当と認められる。

そうすると、被告の負担すべき損害額は三八七万四九八三円となる。

第五損害の填補

請求原因四の事実は、当事者間に争いがない。なお、被告は治療費として五一万五一四七円を支払つた旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

また被告の主張四の事実を認めるに足りる証拠はない。

よつて原告の前記損害額から右填補分二八三万九五八七円を差引くと、残損害額は一〇三万五三九六円となる。

第六弁護士費用

本件事案の内容、審理経過、認容額等に照すと、原告が被告に対して本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は一〇万円とするのが相当であると認められる。

第七結論

よつて被告は、原告に対し、一一三万五三九六円およびこれに対する本件不法行為の日である昭和五九年九月一三日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、原告の本訴請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 中村隆次)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例